弟矢 ―四神剣伝説―
だが、それは蚩尤軍によって阻まれた。

武藤小五郎が精鋭部隊を連れて立ちはだかる。複数の兵士が一気に斬りかかるが、鬼となりつつある正三の敵ではない。あっという間に斬り捨て、正三は武藤の前に立つ。

乙矢は、今度は武藤が『一の剣』を手にするつもりか? と案じたが、奴がしたことは、なんと、腕ごと拾い上げたのだ。

そのまま体を反転させ、なんと、後方から駆けつけた長瀬と新蔵の元に走り寄る。それは、新たに誕生した『鬼』の意識を、長瀬らに向ける作戦だった。



長瀬らは、里人を追う蚩尤軍兵士を殲滅しながら、ようやくここまで来たのだ。

突然、現れた敵将に、臆せず戦う新蔵だったが、わずか数回、刀を合わせると飛び去るように背を向けた。

一体、なんのことかわからず、新蔵は唖然と敵を見送る。


「あの連中、何がやりたいんでしょうか?」


長瀬は新蔵の問いに答えず、一点を凝視している。そして呟いた。


「正……三、まさか……」

「織田さん?」


ふたりは……特に新蔵は、駆けつけたばかりで事の成り行きが飲み込めていない。

自分らに向かって突っ込んでくる正三を、不思議そうに凝視するだけだ。


「逃げろ! 正三は『二の剣』を抜いたんだ!」


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