弟矢 ―四神剣伝説―
弓月には生まれながらに定められた許婚がいた。
四天王家の筆頭にあたる爾志家の長男、一矢だ。一つ年上の彼が十八になれば、祝言を挙げることになっていた。
彼女が初めて一矢に逢ったのは十六歳の誕生日。一矢は正式な結納の品を持って、東国の遊馬家を訪れる。
弓月は、一矢をひと目見るなり、運命の人だと思った。
決して大柄ではないが引き締まった体躯。野生の狼の如きしなやかな立ち居振る舞い。そして、高潔さが漂う容姿は伝説の勇者を思わせた。
さらに、遊馬一門の最年少師範代・桐原新蔵(きりはらしんぞう)をあっという間に叩き伏せた剣術の腕も、弓月だけでなく、一門の皆を唸らせた。
その時、弓月はほんのわずか、違和感のような『何か』を感じた。
しかしそれは、周囲の賞賛と羨望に舞い上がって霧散してしまう。
一矢が旅立った後、その『何か』を思い出そうにも……その時にはもう、運命の輪は悲劇に向かって廻り始めていたのだった。
四天王家の筆頭にあたる爾志家の長男、一矢だ。一つ年上の彼が十八になれば、祝言を挙げることになっていた。
彼女が初めて一矢に逢ったのは十六歳の誕生日。一矢は正式な結納の品を持って、東国の遊馬家を訪れる。
弓月は、一矢をひと目見るなり、運命の人だと思った。
決して大柄ではないが引き締まった体躯。野生の狼の如きしなやかな立ち居振る舞い。そして、高潔さが漂う容姿は伝説の勇者を思わせた。
さらに、遊馬一門の最年少師範代・桐原新蔵(きりはらしんぞう)をあっという間に叩き伏せた剣術の腕も、弓月だけでなく、一門の皆を唸らせた。
その時、弓月はほんのわずか、違和感のような『何か』を感じた。
しかしそれは、周囲の賞賛と羨望に舞い上がって霧散してしまう。
一矢が旅立った後、その『何か』を思い出そうにも……その時にはもう、運命の輪は悲劇に向かって廻り始めていたのだった。