弟矢 ―四神剣伝説―
その男は今、弓月の腕の中で横たわる爾志一矢を名乗った男に瓜ふたつだった。


「何者とはおかしなことを言う。高札を見て参った。私を呼んだのは、其の方ではないか」

「貴様は……まさか」

「四天王家筆頭、爾志家嫡男、一矢である。父亡き今、私が爾志家の当主だ。まずは『青龍一の剣』を我らに返してもらおう」


武藤は喉の奥が詰まったような呻き声を発する。そして、その表情は凶悪なものへと変化して行った。



一方、乙矢にそっくりの、見覚えのある声と容姿。しかし乙矢に反して、自信と自尊心に満ちた口調。それは、紛れもなく兄の一矢に相違あるまい。

待ち焦がれたはずの人だった。

それなのに、喜びを感じられないのは何故だろう。しだいに、乙矢を掴む指に力が籠もる。


「なるほど、あなたが本物の一矢殿か。我らは、偽物に踊らされていたわけですね。さて、困ったことになったものだ」

「狩野……様。控えておられるよう、お願いしたはずだが」


武藤は怒声を上げたいのを必死で堪えた。

仮にも、あの方の右腕と言われる男。武藤自身も、目の前で暴走した鬼を一刀両断にした狩野を見た事があった。

その眼前で、この失態。最早、武藤に取れる手段はひとつしかない。例え、この身を鬼にしても、神剣を奪われる訳にはいかぬ。彼は覚悟を決めて、近習に命じた。


「神剣……『青龍一の剣』をここに持て!」


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