弟矢 ―四神剣伝説―
「え? あっ、いえ、あの」
「どういたした! さっさと持って来ぬかっ!」
「あ、あの、報告申し上げます! 狩野様のご命令で……」
「なんだとっ!」
「まあ、落ち着かれよ、武藤殿。本物の、一矢殿と申されましたな。そろそろ、先ほど仕込んだ、『一の剣』の鬼が目覚める頃でございます。取り戻したくば、鬼を倒していただきましょう」
そんな狩野の後ろから、不気味な影を立ち昇らせ、また、剣の鬼がひとり――。
その様子をジッと見つめ、一矢はフッと笑った。
踵を返し、乙矢の脇に膝を突く。弟を見つめる一矢の目に、慈しみと蔑みを併せ持つ、複雑な感情が浮かび上がった。しかし、その手は――ごく自然に『青龍二の剣』を掴んでいる。
「お待ち下さい、一矢殿! 万にひとつも……」
弓月の心配はもっともだ。この上、一矢も鬼になれば、わずかに芽生えた勝機も、一瞬で霧散する。心細げに見上げる弓月に向かい、一矢は静かに微笑んだ。
「無用な心配だ。かつて『白虎』は私を選んだ。『青龍』も必ずや手中に収めてみせよう。黙って、見ているがいい」
言うなり、一矢は乙矢の手から、神剣をもぎ取った。
「どういたした! さっさと持って来ぬかっ!」
「あ、あの、報告申し上げます! 狩野様のご命令で……」
「なんだとっ!」
「まあ、落ち着かれよ、武藤殿。本物の、一矢殿と申されましたな。そろそろ、先ほど仕込んだ、『一の剣』の鬼が目覚める頃でございます。取り戻したくば、鬼を倒していただきましょう」
そんな狩野の後ろから、不気味な影を立ち昇らせ、また、剣の鬼がひとり――。
その様子をジッと見つめ、一矢はフッと笑った。
踵を返し、乙矢の脇に膝を突く。弟を見つめる一矢の目に、慈しみと蔑みを併せ持つ、複雑な感情が浮かび上がった。しかし、その手は――ごく自然に『青龍二の剣』を掴んでいる。
「お待ち下さい、一矢殿! 万にひとつも……」
弓月の心配はもっともだ。この上、一矢も鬼になれば、わずかに芽生えた勝機も、一瞬で霧散する。心細げに見上げる弓月に向かい、一矢は静かに微笑んだ。
「無用な心配だ。かつて『白虎』は私を選んだ。『青龍』も必ずや手中に収めてみせよう。黙って、見ているがいい」
言うなり、一矢は乙矢の手から、神剣をもぎ取った。