弟矢 ―四神剣伝説―
第四章 古き里跡

一、一矢 ―かずや―

――人の話し声が耳元で聞こえる。

ゆっくりと、瞼を開けた乙矢の耳に響いたのは、


『あなた……乙矢が……乙矢が』


聞きなれた優しい、なのに、懐かしい声だ。母上だ。どうしてこんなに慌てているのだろう? ぼんやりとした頭で乙矢は考える。

だが、


『この大馬鹿者がっ!』


いきなりの怒声。そして、布団から引き剥がされ、父の拳が乙矢の頬に炸裂した。

いやでも目が覚めるというもの。


『あれほど禁域には足を踏み入れるな! 神殿には入るな、と言ったはずだ。それを……』


父の頬は引き攣り、肩は震えている。


『あなた、おやめ下さい』

『お父様……どうかお許し下さい』


母や姉が父に縋っている。その瞳にも涙が溢れていた。


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