弟矢 ―四神剣伝説―
「グゥ……」


歯を食いしばり、痛みを堪えて体を起こす。

だが、どうしても呻き声が出てしまう。出血が酷かったのだろう、上体を起こすだけで、頭がくらくらした。入り口を探して視線を巡らせたが……しだいに壁が歪み始め、気分が悪くなり布団に突っ伏する。


ゆっくりと十まで数え、もう一度頭を起こした。

今度はどうにか我慢できそうだ。とにかく、弓月の無事だけでも確認したい。


乙矢が寝かされていたのは、荒れ寺よりまともで、布団と呼べる代物であった。しかし、床は畳ではなく板間である。

そろそろと這い出し、壁まで辿り着く。そのまま、もたれ掛かる様に座ると、今度は膝に力を入れ、一気に立ち上がった。

唇を噛み締め、痛みに耐える。

すると、同時に色々なことが思い出された。


正三は無事だろうか? 正三に斬られた長瀬の怪我は酷いのだろうか? ほんの数日一緒にいただけの人間なのに、なぜか他人には思えない。

神剣などどうでもいい、と口では言うが……。『四天王家は助け合わねばならない』それは、幼い頃から、乙矢の深層意識にすり込まれている。


引き戸をどうにか開け、壁伝いに廊下に出てみる。辺りは暗闇だ。

そこは、大きな寺のように感じた。高円の里に、こんな寺があった記憶はない。角を曲がると、渡り廊下が見え、その向こうから光が漏れていて、かすかに、人の話し声が聞こえた。


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