弟矢 ―四神剣伝説―
「乙矢殿は何度も私を助けて下さいました。『一の剣の鬼』からも、鬼に心を奪われた正三の剣からも、守って下さったのは乙矢殿です!」

「いや……あれは」


弓月の言葉は嬉しかった。

だが、一矢を前にすると、ことなかれ主義で生きてきた乙矢の悪い部分が顔を出す。


兄は、弱い弟をことさら可愛がった。

無論、一矢から直接言われたことなどない。自覚があるのかないのか、乙矢にはわからない。だが一矢は、兄思いの弟にあらゆる面で自分以下であることを強いたのだ。気付けばそれは、兄弟の間で当たり前のようになっていた。

乙矢にも責任はある。争うことより従うことを、率先して選んでしまったのだから。


「ほう、知らぬ間に随分強くなったのだな」


口調は穏やかだ。知らぬ人間が聞いたら、成長した弟を心から褒めているように聞こえる。


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