弟矢 ―四神剣伝説―
「確かに。恥になるので黙っていましたが……東国からの帰路、蚩尤軍に襲われ瀕死の重傷を負いました。再び剣を手に戦えるようになるのに、一年も掛かってしまった」 


そう言って、弓月の前ではあったが、突然、諸肌を脱いで見せた。その上半身には、大小無数の刀傷があり……全員が息を呑む。

「そ、それは……」


弓月は驚きのあまり注視したが、慌てて頬を染め、視線を逸らす。

一矢は、そんな弓月を見て軽く微笑んだ。


「いや、見苦しいものを弓月殿の目に入れてしまった。お許し下さい。ただ、姿を隠していた理由を聞かれたので、答えたまでのこと。怪我を負った未熟さを、言い訳にしようとは思っておりませぬ。おっしゃる通り、いざという時に誰も守れなかったのは私の責任。戦いを好まぬ乙矢に剣を持たせたのは、私の不徳だと思っております」

「一矢のせいじゃない! 全部、俺が悪いんだ……。弓月殿も、これ以上庇ってくれなくていいからさ」

「乙矢殿……」


乙矢の言葉に切ないものを覚えつつ、弓月は一矢に向き直る。


「一矢殿、失礼なことを申しました。何卒、お許し下さい」

「いや……弓月殿の私に対する期待ゆえ、と思っております。しかし、腑に落ちぬ点がひとつ……あなたは、私の許婚であったはずだ。それとも、この一年で、あなたの許婚は弟に代わったのであろうか?」


一見、平静を装っていたが、それは周囲に大きな動揺を生む質問だった。


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