弟矢 ―四神剣伝説―
一矢の瞳は真っ直ぐに乙矢を見据えていた。

胸の中に芽生えた、ほんの小さな思いを見事に射抜かれ、乙矢は息をするのも苦しい。

一矢の後ろから感じる弓月の視線すら、乙矢には重圧となる。


弓月を守りたい、その一念で慣れぬ剣を手に人を斬った。

そんな乙矢に『青龍』の鬼は言った。


――敵を斬れ。そうすれば、望むものが手に入る。


左肩の傷が疼き、心の臓が早鐘を打ち始める。彼女を妻にできる、そんな一矢は羨ましい。だが、兄と争ってまで、となると。


「俺は、一矢の代わりに弓月殿を守ろうとしただけだ。この先は、一矢が守ってくれるよ。俺が出る幕なんか……」


乙矢は俯き、その声はどんどん小さくなる。

そんな不甲斐ない乙矢を無視し、弓月は自ら宣言した。


「一矢殿。『青龍一の剣』を取り戻して頂き、深くお礼申し上げます。ただ……今は父や兄、一門の仇を討つまでは、どなたの妻になる気もございませぬ。そして、それは……乙矢殿には、なんの関係もございません!」


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