弟矢 ―四神剣伝説―
蚩尤軍が撤退した後、意識のない乙矢と正三を抱え、ひとまずこの里に辿り着いた。


全て一矢の指示だった。

目の前で、勇者の剣を見せられた長瀬や新蔵が、一矢に逆らうはずもなく。近くで見たわけではないか、平然と神剣を手にする一矢を、弥太吉や里人は、勇者と讃えた。

凪には思うところがあるようだが……敢えて逆らうことはしない。

だが、弓月は違う。



一年前、確かに弓月は一矢と正式に結納を交した。


だが、矢羽の左右にも等しいふたりを、見間違ったことがどれほどの罪であろうか?

無論、何も起こらなければ、弓月は一矢の妻となっていたかも知れない。


だが、運命は偽りを許さぬようだ。


蚩尤軍の横槍が入り、祝言の日を迎えることなく、弓月は乙矢と出逢ってしまう。

それがこの時代にあって、正すことが難しい過ちであったとしても。


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