弟矢 ―四神剣伝説―
「放せ! 私はもう遊馬の一門ではない。姫様を手に掛けようとした……万死に値する。武士の情けだ。せめて自害させてくれ」
「でも掛けちゃいねえ!」
「お前が止めたからだ! お前が止めなければ、間違いなく殺していた」
「いいや。お前に姫は斬れない。俺が止めなくても、寸でのとこで正気に戻ってたはずだ!」
「馬鹿を言うな! 鬼の声に耳を貸し、神剣の主になったつもりで、私は剣を揮った。己の心に驕りがあったのだ。なんと弱い、無様なことか……私の心には鬼がいる。それに気付いた以上、姫様のお傍にいる資格などない」
「でもお前は、自分の意思で青龍を手放した。鬼にはなれなかったんだ。――弱くたっていいだろ? 鬼がいたっていいじゃねぇか。完璧な人間なんていやしねぇよ。せっかく戻って来られたのに、なんで死ななきゃならないんだ?」
正三は、不思議なものを見るような目で、乙矢を凝視した。
「なぜだ……俺はお前を刺したんだぞ? 間違いなく、お前を殺すつもりだった」
「敵だって思ったからだろ? でも、殺さなかった」
「それは……」
「鬼を倒すために、鬼になる覚悟で剣を抜いたんだ。あんたは間違いなく勇者だよ。神剣に選ばれなきゃ駄目か? 俺や弓月殿が、そう思ったんじゃ足りないか?」
乙矢は、右手で正三の胸倉を掴み揺さぶった。
正三は俯くと微かに首を振り、
「いや……。乙矢……もう誰も殺させない。そう言ったのは、お前か?」
「え? ああ……どう、だったかな。あの後は、よく覚えてないんだ」
「でも掛けちゃいねえ!」
「お前が止めたからだ! お前が止めなければ、間違いなく殺していた」
「いいや。お前に姫は斬れない。俺が止めなくても、寸でのとこで正気に戻ってたはずだ!」
「馬鹿を言うな! 鬼の声に耳を貸し、神剣の主になったつもりで、私は剣を揮った。己の心に驕りがあったのだ。なんと弱い、無様なことか……私の心には鬼がいる。それに気付いた以上、姫様のお傍にいる資格などない」
「でもお前は、自分の意思で青龍を手放した。鬼にはなれなかったんだ。――弱くたっていいだろ? 鬼がいたっていいじゃねぇか。完璧な人間なんていやしねぇよ。せっかく戻って来られたのに、なんで死ななきゃならないんだ?」
正三は、不思議なものを見るような目で、乙矢を凝視した。
「なぜだ……俺はお前を刺したんだぞ? 間違いなく、お前を殺すつもりだった」
「敵だって思ったからだろ? でも、殺さなかった」
「それは……」
「鬼を倒すために、鬼になる覚悟で剣を抜いたんだ。あんたは間違いなく勇者だよ。神剣に選ばれなきゃ駄目か? 俺や弓月殿が、そう思ったんじゃ足りないか?」
乙矢は、右手で正三の胸倉を掴み揺さぶった。
正三は俯くと微かに首を振り、
「いや……。乙矢……もう誰も殺させない。そう言ったのは、お前か?」
「え? ああ……どう、だったかな。あの後は、よく覚えてないんだ」