弟矢 ―四神剣伝説―
瀟洒(しょうしゃ)な城の外見とは裏腹に、天守閣への階段は狭くみすぼらしいものであった。

そこを、細身の狩野はすいすい上がるが、屈強な武藤にしたら、昇り難いことこの上ない。


「狩野様、本当によろしかったのか? 先触れも出さず、閣下の前に参上するなど。しかも『青龍一の剣』を奴らに取り返されたのですぞ。拙者なんぞ、この場で斬られるのではあるまいか?」


どうやら、足取りが重いのは階段の造りのせいだけではないようだ。


ここまでの道中、狩野は何も説明しようとはせず、あの方がおられるはずの城に戻る、と言ったきりであった。


「のう、武藤殿。あの方は何ゆえ、暑苦しい鉄冑に加えて妙な面までつけておられるのだろうな?」

「それは……顔に酷い傷を負われたと、拙者は聞いておりますが」

「勇者の末裔を自称し、四神剣の伝説を利用して見事に幕府方に取り入った。今では、正規軍の半数を蚩尤軍の呼称で動かしておられる。顔を見られて困るのは、似た顔がもうひとつあるせいではなかろうか?」


後一階昇れば天守閣だ。狩野は不遜な発言をしつつ、武藤を振り返った。


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