弟矢 ―四神剣伝説―
「まさか……あの時の……いや、しかし、一矢を東国と西国の境で襲ったのは狩野様ではございませんか? 確かに手ごたえはあった、と。あの方が現れたのは、それより以前。しかも、その後すぐに東国の遊馬家を襲ったのでは?」

「手ごたえはあった。だが、死体を見たわけではない。影武者いう策を弄するものは、これまでにも、たくさんいたはずだ」

「しかし……」


戸惑う武藤に再び背を向けると、最上階を目指した。

正体を知っておいて損はない。鬼にされて、使い捨てになるのは真っ平ご免だ。狩野はそう考えながら階段を昇りきる。

その時、中央に仕切られた六畳ほどの天主の間から声が聞こえた。


「どうやら、しくじったようだな」


仮面越しのその声に、狩野の表情は凍りつく。武藤はすでに平伏していた。


「『青龍一の剣』までも奪われたか……」

「はっ! 申し訳ございません」


予想が外れ、双六が振り出しに戻った気分の狩野であった。


だがこの時、部屋を見回せば気付いたかも知れない。

数日前まで、壁に祀られていた神剣『朱雀』が消えている、ということに。


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