弟矢 ―四神剣伝説―
四、二番矢の意味
正三から『神剣の主』と認められたことも、弓月に『運命の人』『ただひとりの勇者』と称えられたことも知らず、まるで自覚のない“他薦の勇者”乙矢は、この時、兄と向き合っていた。
「私が何故、お前の噂を聞いても西国に戻って来なかったかわかるか?」
兄に呼びつけられ、板の間に正座させられ、突然こんな質問をぶつけられる。
「それは……怪我が原因だって」
乙矢は相変わらず俯き、小声で返答した。
どうも再会以降、正面から一矢の顔を見ることができない。色々な感情が入り乱れ、後ろめたい思いが乙矢の中で渦巻いていた。
それを察してか、一矢は真っ直ぐに斬りこんで来た。
「お前……私の許婚に懸想しておるな」
「と、突然、何を言うんだ!」
いきなり話が飛んで、乙矢はどう答えていいのかわからない。
「誤魔化さずとも良い。だからこそ、弓月殿の前では言わずにいてやったのだ」
「え? それは、どういう……」
「乙矢……『白虎』を蚩尤軍に渡したのはお前であろう」
それは、乙矢にとって息の根を止められるような言葉だった。
「――どうして、そう、思うんだ」
心の臓が壊れそうなほど疾走している。
ようよう一言口にして、乙矢は生唾を飲み込んだ。
「私が何故、お前の噂を聞いても西国に戻って来なかったかわかるか?」
兄に呼びつけられ、板の間に正座させられ、突然こんな質問をぶつけられる。
「それは……怪我が原因だって」
乙矢は相変わらず俯き、小声で返答した。
どうも再会以降、正面から一矢の顔を見ることができない。色々な感情が入り乱れ、後ろめたい思いが乙矢の中で渦巻いていた。
それを察してか、一矢は真っ直ぐに斬りこんで来た。
「お前……私の許婚に懸想しておるな」
「と、突然、何を言うんだ!」
いきなり話が飛んで、乙矢はどう答えていいのかわからない。
「誤魔化さずとも良い。だからこそ、弓月殿の前では言わずにいてやったのだ」
「え? それは、どういう……」
「乙矢……『白虎』を蚩尤軍に渡したのはお前であろう」
それは、乙矢にとって息の根を止められるような言葉だった。
「――どうして、そう、思うんだ」
心の臓が壊れそうなほど疾走している。
ようよう一言口にして、乙矢は生唾を飲み込んだ。