弟矢 ―四神剣伝説―
兄姉を守れ、と言った母の真意は不明だ。
本当は、一矢に守ってもらえ、と言いたかったのかも知れない。
「た、ただの……強盗だと、神剣目当ての……それだけだと思ったんだ。俺は……俺には誰ひとり守る力はないから。神剣と引き換えに助けられるなら、って……そう」
「お前が、父上や母上を殺したんだ。爾志に仕える一門も、皆、お前が殺した」
真夏だというのに、乙矢は背筋が凍るような寒さに震えていた。
一矢の言葉は、容赦なしに乙矢を打ちのめす。乙矢はこの時、一矢の自分に向ける憎しみを知る。両親と姉、一門の全てを死に追いやった乙矢を、赦したくても赦せずにいるのだ、と。
「弓月殿は『青龍』を命がけで守り、仇を討つまでは諦めぬと言われた。そんな彼女が、お前の所業を知れば……」
「俺は……俺は、弓月殿に懸想などしてない。ただ、一矢の代わりに守れたら……盾になりたいと思っただけなんだ。本当にそれだけで」
「ならば、事の真相を話しても、差し障りはないのだな」
「それは……」
何度も庇ってくれた。皆に馬鹿にされても、乙矢は弱くはない、と言ってくれた。
でも、悪気はなくとも、浅はかな了見で『白虎』を敵に渡し、一門を皆殺しにされたと知れば……。
「それだけは勘弁してくれ。頼む。妙な考えは抱いてない。でも、そこまで愚かだとは知られたくないんだ。頼むよ、一矢。お願いだ」
本当は、一矢に守ってもらえ、と言いたかったのかも知れない。
「た、ただの……強盗だと、神剣目当ての……それだけだと思ったんだ。俺は……俺には誰ひとり守る力はないから。神剣と引き換えに助けられるなら、って……そう」
「お前が、父上や母上を殺したんだ。爾志に仕える一門も、皆、お前が殺した」
真夏だというのに、乙矢は背筋が凍るような寒さに震えていた。
一矢の言葉は、容赦なしに乙矢を打ちのめす。乙矢はこの時、一矢の自分に向ける憎しみを知る。両親と姉、一門の全てを死に追いやった乙矢を、赦したくても赦せずにいるのだ、と。
「弓月殿は『青龍』を命がけで守り、仇を討つまでは諦めぬと言われた。そんな彼女が、お前の所業を知れば……」
「俺は……俺は、弓月殿に懸想などしてない。ただ、一矢の代わりに守れたら……盾になりたいと思っただけなんだ。本当にそれだけで」
「ならば、事の真相を話しても、差し障りはないのだな」
「それは……」
何度も庇ってくれた。皆に馬鹿にされても、乙矢は弱くはない、と言ってくれた。
でも、悪気はなくとも、浅はかな了見で『白虎』を敵に渡し、一門を皆殺しにされたと知れば……。
「それだけは勘弁してくれ。頼む。妙な考えは抱いてない。でも、そこまで愚かだとは知られたくないんだ。頼むよ、一矢。お願いだ」