弟矢 ―四神剣伝説―
一矢が何を言い出したのか、乙矢にはよくわからなかった。


「私が戻った以上、もう、戦いを長引かすつもりなどない。お前が蚩尤軍に通じているのでは、と疑心暗鬼になり、戻るに戻れなかったが……。お前に会って、裏切り者ではない、と確信した。お前は一足先に爾志の領地に戻り、できる限り人目に付かぬように身を潜めておれ。よいな」

「ま、待ってくれ。そんな、ここまで来て俺だけ逃げ出すわけには行かないよ。そりゃ、一矢のような勇者にはなれないけど。でも……せめて、弓月殿を守る盾にはなれる。なりたいんだ! 罪を償う機会を与えてほしい……頼む」

「馬鹿者! 貴様がいるだけで危険だと何故わからぬ。高円の里で、私の到着がわずかでも遅れていれば、遊馬一門は全滅であった。違うか?」


返す言葉もない。弓月を守ると言っても、乙矢のやり方では中途半端この上なかった。これでは、本当に守ったことにはならない。


「それに、乙矢。お前、『青龍二の剣』を抜いたのであろう? お前が鬼と化し、弓月殿を殺したかも知れんのだぞ!」


その言葉に、乙矢は顔を上げ、力強く反論する。


「弓月殿は斬らない!」


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