弟矢 ―四神剣伝説―
その剣幕に、一矢は眉を顰める。


「何故、そんなことが言える?」

「それは……」

「それは、私と弓月殿を賭けて戦いたいということか?」

「違う。そうじゃなくて……」

「三日以内に、誰にも何も言わずこの里を去れ。弓月殿は私の花嫁となるおなごだ。必ずや私が守り抜こう。乙矢……お前のためなのだ。私は、お前を罪人にしたくはない。――もう、戦わずともよい。後は全て私に任せれば良いのだ」


弓月を守る役目は、許婚である一矢が果たすという。

そう言われては、乙矢に出番などない。そして、駄目押しのように、


「乙矢、お前は神剣など守りたくはないのだろう? この件が終われば、お前は爾志の名に縛られることはない。神剣の守護に命など賭けずとも良いのだ。四天王家、爾志一門の復興は、必ずや私が果たそう。――お前は自由だ」


それらは全て乙矢が口にしては、父の怒りを買い、母を悲しませてきたことでもあった。

爾志の名に未練などない。

剣を捨てることにも、いや、もともと脇差すら持ってはいない。


だが、今の乙矢が欲しいものは――穏やかな未来に、自身の傍らで微笑む弓月の姿であった。


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