弟矢 ―四神剣伝説―
正三が弓月の傍でそっと耳打ちし、対岸を示す。そこには客を取る船女郎が、数人集まってこちらを指差しているようだ。これ以上、人目を引くのはまずい。

無言で正三に肯くと、乙矢に向き直った。


「そうか……では、最後に一つだけ。連中に話してない、一矢殿の行き先に心当たりはないだろうか?」

「ない。――でも、死んじゃいねえよ」

「何故わかるのです?」

「双子の勘だ。一矢は昔から、苛められてる俺を見たら飛んできて助けてくれた。今度もきっと助けてくれる。あいつは俺とは違って本物の勇者で剣士なんだ。必ず助けてくれる、そう信じてる」


目を瞑り、祈るように乙矢は「信じている」と繰り返した。


その姿を見た瞬間、弓月の心に透明な矢が刺さった。


この時はまだ、その正体には気付くことはできなかったが……。


「私も、信じています。一矢殿に再会し、共に蚩尤軍を討ち、神剣を取り戻す日が来ることを」


差し迫った現実に、小さな動揺など振り払うように、弓月は顔を上げた。


「明日の朝一番で宿場を立とう。東国に戻るぞ」


他の三人とも唱えたい異論はあったが――それぞれに、心の中で乙矢を罵倒するに止めたのだった。


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