弟矢 ―四神剣伝説―
乙矢は優しすぎる。

決して、一矢に刃向かってまで、弓月を手に入れようとはしてくれないだろう。

だが、乙矢の声は心地良い、傍にいるだけで心が癒される。弓月は、ゆっくり瞬きをして、平静を保ちながら微笑んだ。


「では、乙矢殿の責任は重大ですね」

「え? 何が?」

「二番矢を外せば後はない。もし、あなたが剣を取る時は、それは決して負けてはならない時でしょうから……」


その言葉は乙矢の胸の奥、堅固に閉じ込められた部分を揺さぶった。

ちょうど、母の最期の言葉を聞いた時のように……それが何を意味するのか、この時の乙矢にはわからず、返事ができなかった。


「……乙矢殿」

「え? ああ……なに?」

「私のことを守って下さいますか?」

「それは、一矢が……」

「私は乙矢殿にお願いしているのです。それとも、一矢殿に引き渡せば、後は知ったことではないと言うことですか?」

「そ、そんなことはねえって。……わかった、わかったよ。一矢がいても、もし弓月殿がヤバくなったら、絶対に駆けつけるから、さ。何処にいても、どんなに離れてても、俺にできる全力で守るよ」


その言葉に、弓月は久しぶりに極上の笑顔を見せてくれた。


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