弟矢 ―四神剣伝説―
「すまぬ。全ては私の責任。乙矢の考えを見抜けなかった……私の罪だ」
里人の、乙矢に対する赦し難い思いが、見る見るうちに膨らんでくる。
もしここに乙矢が舞い戻れば、袋叩きにでも遭いそうだ。とくに新蔵の言葉――高円の里が襲われたのは、乙矢が里の場所を漏らしたからだ。その疑惑はなんの証拠もなしに、里人の心に浸透しつつあった。
「確かに乙矢殿は、勇者の血にも神剣の力にもなんの意義も持ってはおられなかった。命懸けで守る意味などない、と……欲しい奴にくれてやれとも、言ってましたね」
突如、皆の後方から、声が上がる。
声の主は正三であった。
彼はあの日以来、部屋に籠もりきりで全く姿を現さずにいた。乙矢に自害を阻まれ考え直した結果、弓月に『鬼となり同胞に斬りかかったのは事実であるから、どんな処分も受ける』そう伝えたのだ。
弓月は久しぶりに人前に出た正三にホッとしつつ……それでいて、皆と正三の間に生まれた、微妙な亀裂を感じ取っていた。
彼らは、鬼となり斬りかかった正三の姿を忘れられずにいる。神剣の勇者に対する憧憬とともに、鬼に対する恐怖が彼らの潜在意識の中に刷り込まれていたせいでもあった。
「織田……正三郎だったな。おぬしは部屋から出ぬように言ってあったはずだが」
弓月の目に、一矢はまるで正三のことを警戒しているように映った。
凪の見解では、神剣を手に一度は鬼に心を囚われたことを案じているのだろう、と言っていたが……。
里人の、乙矢に対する赦し難い思いが、見る見るうちに膨らんでくる。
もしここに乙矢が舞い戻れば、袋叩きにでも遭いそうだ。とくに新蔵の言葉――高円の里が襲われたのは、乙矢が里の場所を漏らしたからだ。その疑惑はなんの証拠もなしに、里人の心に浸透しつつあった。
「確かに乙矢殿は、勇者の血にも神剣の力にもなんの意義も持ってはおられなかった。命懸けで守る意味などない、と……欲しい奴にくれてやれとも、言ってましたね」
突如、皆の後方から、声が上がる。
声の主は正三であった。
彼はあの日以来、部屋に籠もりきりで全く姿を現さずにいた。乙矢に自害を阻まれ考え直した結果、弓月に『鬼となり同胞に斬りかかったのは事実であるから、どんな処分も受ける』そう伝えたのだ。
弓月は久しぶりに人前に出た正三にホッとしつつ……それでいて、皆と正三の間に生まれた、微妙な亀裂を感じ取っていた。
彼らは、鬼となり斬りかかった正三の姿を忘れられずにいる。神剣の勇者に対する憧憬とともに、鬼に対する恐怖が彼らの潜在意識の中に刷り込まれていたせいでもあった。
「織田……正三郎だったな。おぬしは部屋から出ぬように言ってあったはずだが」
弓月の目に、一矢はまるで正三のことを警戒しているように映った。
凪の見解では、神剣を手に一度は鬼に心を囚われたことを案じているのだろう、と言っていたが……。