弟矢 ―四神剣伝説―
凪から軽く叱られた弥太吉は、それを不服だと言わんばかりに、口を尖らせた。
「別にそんな……。一矢さまがおいらに言ったんです。乙矢のことは責任を持つから、見逃してくれ、って。一矢さまは厳しいことも言われますけど、本当は弟思いの優しい方です! おいらはそう信じてます。なんたって、勇者さまなんだから!」
言いたいことだけ言って、弥太吉は一矢の後を追って行った。
だが、弥太吉の言葉は、必死で乙矢を信じようとする弓月の胸に衝撃を与えた。それは、運命を見失いそうになるほどに……。
しばし無言の時が流れ、それまで黙っていた長瀬が口を開く。
「姫、一矢様は乙矢が蚩尤軍に鬼として利用されることを心配しておられるのでは?」
「果たして……それだけであろうか?」
「姫?」
「わからぬ。私には一矢殿だけでなく、乙矢殿のお気持ちも、全くわからなくなってしまった」
そこに正三が口を挟んだ。
「姫様、乙矢殿が『青龍』を奪おうと画策するなら、これまでに何度も機会はあったでしょう。わざわざ、一矢殿が現れたこの機に、これほどの危険を冒してまで裏切る理由があると思われますか?」
そんな正三の言葉に凪もうなずく。
「確かに……少なくとも乙矢どのは、里人を殺せるような方ではないでしょうね」
「いや、理由は決まってる」
そう言い切ったのは新蔵だった。
「別にそんな……。一矢さまがおいらに言ったんです。乙矢のことは責任を持つから、見逃してくれ、って。一矢さまは厳しいことも言われますけど、本当は弟思いの優しい方です! おいらはそう信じてます。なんたって、勇者さまなんだから!」
言いたいことだけ言って、弥太吉は一矢の後を追って行った。
だが、弥太吉の言葉は、必死で乙矢を信じようとする弓月の胸に衝撃を与えた。それは、運命を見失いそうになるほどに……。
しばし無言の時が流れ、それまで黙っていた長瀬が口を開く。
「姫、一矢様は乙矢が蚩尤軍に鬼として利用されることを心配しておられるのでは?」
「果たして……それだけであろうか?」
「姫?」
「わからぬ。私には一矢殿だけでなく、乙矢殿のお気持ちも、全くわからなくなってしまった」
そこに正三が口を挟んだ。
「姫様、乙矢殿が『青龍』を奪おうと画策するなら、これまでに何度も機会はあったでしょう。わざわざ、一矢殿が現れたこの機に、これほどの危険を冒してまで裏切る理由があると思われますか?」
そんな正三の言葉に凪もうなずく。
「確かに……少なくとも乙矢どのは、里人を殺せるような方ではないでしょうね」
「いや、理由は決まってる」
そう言い切ったのは新蔵だった。