弟矢 ―四神剣伝説―
それが、この里に落ち着いてから……新蔵の態度は、最初の頃に戻ってしまった。

本人に面と向かって、勇者の弟というだけの役立たず、と口汚く罵ることもあったくらいだ。

しかも、それは乙矢に対してだけではない。鬼と化した正三や、盲目の凪のことすらも軽んじるようになってしまった。


「前々から、考えるより先に行動してしまう奴ではありましたが。まさかあのように、姫に刃向かうなどとは……」


長瀬も呆然としている。


「新蔵だけではござらぬ。弥太も私の言葉を聞かぬようになった。それに……長瀬どの、そちもいささか変わってはおらぬか?」

「拙者がでござるか? そんなことは……」

「些細なことではあるが、おぬしは弓月どのの後ろではなく、一矢どのの後ろに立つようになった。それは意識してのことだろうか?」

「いや、そんな……それは、わからぬが。ただ、凪先生。我らは、勇者殿に従うために、西国まで来たのではあるまいか?」

「確かに、目的は間違いありません。我らは、勇者どのを求めて参った。そう、本物の勇者を……正三、如何致した?」


正三はさっきから黙り込んで何事か考えているようだ。

そんな彼の気配に気づき、凪は声を掛ける。


「いえ……何か、引っ掛かることがあるのですが、それがわからぬのです。喉元に小骨が刺さっているようで、いささか心地悪い」


この時、弓月らは、新蔵のことだ、すぐに詫びを入れて弓月の元に戻って来る。そう、楽観していたのだった。


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