弟矢 ―四神剣伝説―
(……奴のせいだ! 全部、乙矢のせいだ。奴が現れて……全てがおかしくなったのだ)


怒りに任せて、新蔵は森の中を駆け巡った。

里の入り口辺りで立ち止まった時、後方に何かの気配を感じ、振り向き様に刀を抜く。

寸止めで機先を制するのが目的だ、と正三から教わった。だが、この時の新蔵は、一気に薙ぎ払った。野犬が断末魔の悲鳴を上げ、地面に転がる。


胸が痛まない――沸々と湧き上がる、乙矢に対する憎悪に塗れた感情が、新蔵の心をどす黒く蝕んで行く。


感情の振り幅が大きいのが、彼の欠点でもあり、長所でもあった。

その感情が負に固定され、乙矢憎しの色を濃くしていく。それがどれほど危険なことか、この時の新蔵には気付くことができない。



そんな新蔵の前に、気配を殺してひとりの男が立った。


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