弟矢 ―四神剣伝説―
新蔵の前に現れたのは一矢だった。

乙矢憎しの思いに心を囚われた新蔵に、一矢は言ったのだ。


「奴は女子の扱いには慣れておる。弓月殿は、見事、その手管に囚われてしまったのだ」


弓月に破門され、怒りの矛先を乙矢に向けていた心に、『それ』は容易く入り込んだ。


「もし、本当に奴が神剣を奪ったなら、必ず双頭の龍を手に、私を狙って来るだろう。私を殺さねば弓月殿は手に入らぬからな」

「そんな、まさか奴もそこまでは……勇者である一矢様に刃向かうなんて」

「そうだな。敵に利用されただけなら良いが、乙矢自身が鬼にされるやもしれぬ。奴は『白虎』に触れた事があるのだ。つい先日は、『青龍二の剣』も抜いた。私とは双子であるから、他の者より、神剣に長く触れていても、心を奪われることはないはずだ。だが、それは、奴の中の鬼が目覚めていない訳ではないのだ。いや、里人を殺めて神剣を奪った時点で、奴はすでに鬼であろうな」


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