弟矢 ―四神剣伝説―
――鬼は敵だ。敵は殺さねばならない。


ドクン、と新蔵の鼓動が跳ね上がった。

妙な気配と声が、直接脳裏に響く。ざわざわした感触が足元から這い上がり、股間から背筋を突き抜け首筋まで伝った。まるで胃の腑辺りを素手で撫でられる感覚だ。

そして、その感覚は次第に熱を帯び、乙矢に対する負の感情を煽り立てる。


「新蔵、お前に頼みたいことがある」

「俺、いえ――私に、でございますか?」

「かなり危険な役目だ。だが、他の者では駄目だ。お前にしか頼めぬ」


新蔵の呼吸が速くなる。

自分が妙な汗を掻いていることに気付いていない。今の新蔵には、伝説の勇者が自分にしか頼めないという言葉に、彼の中の優越感が満足の声を上げ、更なる期待を望んでいた。


「も、もちろん、喜んでお受け致します。神剣の主の命令とあれば、一命を賭しても必ずや果たして参りましょう」

「よろしい。では、桐原新蔵、そちに命ずる――」


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