弟矢 ―四神剣伝説―
一矢の指が首に回った瞬間、弓月の身体から引き剥がされた。反動で、弓月は前のめりに倒れ込み、地面に両手を突く。


「姫様っ! 大丈夫でございますか!?」


その声は正三だ。


「しょう……ざ。あ……ああ、大丈夫だ」


声が震えて膝に力が入らない。弓月は両手で胸元を隠すようにして、座り込んだまま震えていた。


「一矢殿、これは一体なんの真似でしょう? 我らの姫様に何をなさったのか、あなたは、わかっておられるのか?」


正三は弓月を庇うように前に立った。

本来の彼が持つ、激情を押し殺した声で一矢を責める。ふたりは真正面から睨み合う形になった。


「聞かずともわかろうものだ。夫婦同然の男女の睦み合いだ。邪魔を致すな」

「姫様は許婚であって、おぬしの妻ではない! 祝言も待たず、日の高いうちから、しかも、このような場所でおなごの身体に触れるなど、勇者にあるまじき行いではないかっ!」


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