弟矢 ―四神剣伝説―
しかし一矢は、そんな正三を鼻で笑うと、彼がぶつけた怒りを軽く受け流した。
「妻となる女の身体を検分したまでだ。すでに……男を知った可能性もあるのでな」
弓月は悔しさに顔を真っ赤にした。
しかし、身体が震えて言葉が出ない。怯えた弓月の姿に、正三は今にも爆発しそうな怒りを、渾身の力で抑える。
「姫様は、私が連れて参ります」
そう告げると、返事を待たず弓月を抱き上げた。だが、そんな正三の背に、
「待て。それは刀に賭けても、か?」
一矢の冷ややかな問いに、正三は小揺るぎもせず答える。
「はい」
周囲の空気が流れを止め、膠着したまま時間が止まった。それは里だけでなく、まるで、山全体が呼吸すら忘れたかのようだ。
息苦しさの中、口を開いたのは正三だった。
「一矢殿にお聞きする。今しがた、姫様の首に手を掛けておられなんだか? お答えいただこう」
「気のせいであろう」
「……そうですか。では」
正三は弓月を抱えたまま、軽く一礼し、立ち去った。
「妻となる女の身体を検分したまでだ。すでに……男を知った可能性もあるのでな」
弓月は悔しさに顔を真っ赤にした。
しかし、身体が震えて言葉が出ない。怯えた弓月の姿に、正三は今にも爆発しそうな怒りを、渾身の力で抑える。
「姫様は、私が連れて参ります」
そう告げると、返事を待たず弓月を抱き上げた。だが、そんな正三の背に、
「待て。それは刀に賭けても、か?」
一矢の冷ややかな問いに、正三は小揺るぎもせず答える。
「はい」
周囲の空気が流れを止め、膠着したまま時間が止まった。それは里だけでなく、まるで、山全体が呼吸すら忘れたかのようだ。
息苦しさの中、口を開いたのは正三だった。
「一矢殿にお聞きする。今しがた、姫様の首に手を掛けておられなんだか? お答えいただこう」
「気のせいであろう」
「……そうですか。では」
正三は弓月を抱えたまま、軽く一礼し、立ち去った。