弟矢 ―四神剣伝説―
「さ、里人? どういうことだよ。誰が殺されたんだ!? 弓月殿は無事なのか!」
「茶番もそれまでだっ!」
「待て待て! 里が襲われたのか? 青龍が奪われたのか? 弓月殿は……」
新蔵と戦うつもりは全くない。乙矢は、ただひたすら彼の切っ先を避けるのみだ。しかし、ハッと気付いた瞬間、崖に追い詰められた。逃げることより、訊ねることに意識が取られていたせいだ。乙矢は逃げ場を失った。
彼の耳に滝の音が甦り、それはさっきより大きな音に聞こえる。
(――飛び降りるか?)
チラッと崖下に目をやった。
決してなだらかとは言い難い斜面だ。細身の低木が所々に見える。運が良ければ、あれに引っ掛かり、滑り下りることができるかも知れない。下が川なら助かる可能性も――「無理だよなぁ、絶対」思わず口に出していた。
裾の見えない崖に飛び降りて助かる訳がない。間違いなく枝葉を突き破り、地面に叩きつけられ即死だ。
しかし、そこまで来てようやく、乙矢は新蔵の様子がおかし過ぎることに気付いた。そして、彼が腰に差した脇差がいつもと違っていることにも。
「新蔵……どうしたんだよ、変だぜ? なあ、その脇差って」
「やかましい! これでおしまいだ!」
そう言うと、新蔵は長刀を腰に戻し、一矢から預かった脇差を鞘ごと腰から抜き、柄に手を掛けた。
「茶番もそれまでだっ!」
「待て待て! 里が襲われたのか? 青龍が奪われたのか? 弓月殿は……」
新蔵と戦うつもりは全くない。乙矢は、ただひたすら彼の切っ先を避けるのみだ。しかし、ハッと気付いた瞬間、崖に追い詰められた。逃げることより、訊ねることに意識が取られていたせいだ。乙矢は逃げ場を失った。
彼の耳に滝の音が甦り、それはさっきより大きな音に聞こえる。
(――飛び降りるか?)
チラッと崖下に目をやった。
決してなだらかとは言い難い斜面だ。細身の低木が所々に見える。運が良ければ、あれに引っ掛かり、滑り下りることができるかも知れない。下が川なら助かる可能性も――「無理だよなぁ、絶対」思わず口に出していた。
裾の見えない崖に飛び降りて助かる訳がない。間違いなく枝葉を突き破り、地面に叩きつけられ即死だ。
しかし、そこまで来てようやく、乙矢は新蔵の様子がおかし過ぎることに気付いた。そして、彼が腰に差した脇差がいつもと違っていることにも。
「新蔵……どうしたんだよ、変だぜ? なあ、その脇差って」
「やかましい! これでおしまいだ!」
そう言うと、新蔵は長刀を腰に戻し、一矢から預かった脇差を鞘ごと腰から抜き、柄に手を掛けた。