弟矢 ―四神剣伝説―
四、真実の扉
新蔵は崖から落ちまいと必死で右手を伸ばした。その手は、斜面に生えた低木の枝葉を掴む。細身の枝は限界までしなり、彼の期待に応えようとする。だが、右腕に掛かる負担は相当だ。堪え切れず、彼は脇差を離して左手も追加した。
その時、一矢から渡された脇差は渓谷の底を目指し、悲鳴にも似た反響音を残して消えて行く。
軽く舌打ちするが、この状況ならそう遠くない未来に再び会えるだろう。枝ではなく、せめて幹に掴まろうと左手を伸ばすが、敢え無く空を切った。同時に、右の手の平から、救いの枝もするりと抜け、
(――駄目か)
新蔵が覚悟を決めた瞬間、ガクン、と急制動が掛かった。
脇差を捨て、差し出した手が掴んだものは、乙矢の手であった。
「は、はやく……上がれ」
乙矢は咄嗟に新蔵目掛けて飛びついた。ぎりぎりまで崖から身を乗り出し、寸での所で奴の左腕を掴む。
「馬鹿野郎、誰が貴様に助けてくれと……」
「馬鹿はどっちだ! 落ちたら死ぬぞっ! どうせ死ぬなら弓月殿のために死ねよっ!」
「……くっ」
新蔵はあまりの悔しさに口唇を歪めた。
その時、一矢から渡された脇差は渓谷の底を目指し、悲鳴にも似た反響音を残して消えて行く。
軽く舌打ちするが、この状況ならそう遠くない未来に再び会えるだろう。枝ではなく、せめて幹に掴まろうと左手を伸ばすが、敢え無く空を切った。同時に、右の手の平から、救いの枝もするりと抜け、
(――駄目か)
新蔵が覚悟を決めた瞬間、ガクン、と急制動が掛かった。
脇差を捨て、差し出した手が掴んだものは、乙矢の手であった。
「は、はやく……上がれ」
乙矢は咄嗟に新蔵目掛けて飛びついた。ぎりぎりまで崖から身を乗り出し、寸での所で奴の左腕を掴む。
「馬鹿野郎、誰が貴様に助けてくれと……」
「馬鹿はどっちだ! 落ちたら死ぬぞっ! どうせ死ぬなら弓月殿のために死ねよっ!」
「……くっ」
新蔵はあまりの悔しさに口唇を歪めた。