弟矢 ―四神剣伝説―

五、放たれた臥竜

生かされているのには理由(わけ)がある。

乙矢はずっと、一矢を釣り上げる為の餌だと思っていた。だからこそ、一矢の無事さえ確かめれば、いつ殺されても構わないと思って生きてきたのだ。

その思いは、一矢に再会して更に強まる。

一矢は、新蔵に弟を斬れと命じた。『白虎』の件で、決して自分を許してはいない。自分は勇者の心を乱し、惑わせるだけの存在なのだ。

本当なら、兄の身代わりとなっても、役に立って死にたかった。せめて、それが同じ顔を持つ勇者の二番矢(おとや)と定められた、存在理由だと信じて。


「答えろよ。一矢が現れたからだよな? 餌がいらなくなっただけで、決して、一矢が望んだからじゃないよなっ!」

「我らは命令に従うのみ。そのようなことは、我らの知るところではない」


乙矢の言葉も、敵将の言葉も、新蔵にはさっぱりわからない。


「お、おい乙矢。どういう意味だ?」

「一矢は、俺を殺せってお前に命じたんだろ?」

「そ、それは、一矢様はお前が里人を殺して、神剣を奪ったと思ったからに決まってる。身内の恥は自らが、と思われて」

「それは……ないよ」

「えっ?」


乙矢は口の中で繰り返す。――それはありえない。


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