弟矢 ―四神剣伝説―
第六章 偽りの里

一、剣士の誓い

(――風向きが変わった)


正三は里の周囲を念入りに警戒して歩きながら、そんなことを思った。

今は昼八つを過ぎた辺りだ。

弓月は一矢と共に、凪と長瀬、弥太吉を連れて、明け方、里を後にした。


ちょうど出立の頃、乙矢と新蔵が蚩尤軍に襲われていたのだが、彼らにはわかろうはずもなく。



『連中が鬼を作り、襲ってくる前に先手を打つ。この位置なら、蚩尤軍は美作の関に駐留するであろう。そこを攻撃し、神剣を取り戻す』


一矢はそう宣言した。しかし、弓月は、


『我らが離れた隙に、連中が里を襲えばどうなります?』

『だから、先に攻めるのだ。なんとしても、神剣を取り戻さねばなるまい』


躊躇う弓月に一矢は、


『なんの為に正三がいる? 弓月殿は、再び里を戦場にして、戦う術のない女子供を巻き込むおつもりか? 万一の時は、我らが引き返すまでの間、彼が里を守ってくれるであろう』


思わせぶりに言うと、正三に視線を向けた。

正三に否と言えるはずもなく……。


『――はい。姫様、どうぞご安心を』


< 245 / 484 >

この作品をシェア

pagetop