弟矢 ―四神剣伝説―
咄嗟に、正三は長刀の鞘から小柄を取り出し、その刃を左手で握り締めた。「クッ!」――左手の指の隙間から床に数滴したたり落ちる。蝋燭の明るさでは、それは黒にしか見えない。
だが、祭壇の周囲に漂う艶(なまめ)かしく強い香りは、生臭い血の匂いに取って代わった。
彼はそのまま、小部屋の引き戸を開ける。それは思いのほかスルスル開いた。
正面の壁の中央に、爾志一門に伝わる結界札が張ってあった。それは、遊馬のものとは違ったが、効力は同じと聞いている。四方に張った結界を更に強化させるもののはずだ。神剣を奉る神殿にも用いられている。
結界は、外からの侵入を防ぐ目的か、或いは、何かの効力を内に封じ込めたかったか。敵の侵入を防ぐために張ったものとも考えられるが、正三は、そうではない、と確信していた。
なぜなら、結界の効力は、勇者の血縁には利かない。
それは、ここ数日の、新蔵や弥太吉らの様子に、妙に合致する。
カチ――鍔を押し上げると同時に、深く息を吐いた。そして、一気に吸い込むと、息を止め、気合を籠めて刀を抜く。
二つ数えるうちに、刀は鞘に戻り、正三は息を吐いた。
足元に、真っ二つになった結界札が木の葉のように舞い落ちた。
(ここを出るか、それとも、四方位の結界を解くか……)
誰かの下につくことが多かったため、正三は決断には慣れていない。迷う彼の耳に届いたのは、本堂の扉を、ブチ破る勢いでざわめく足音だった。
だが、祭壇の周囲に漂う艶(なまめ)かしく強い香りは、生臭い血の匂いに取って代わった。
彼はそのまま、小部屋の引き戸を開ける。それは思いのほかスルスル開いた。
正面の壁の中央に、爾志一門に伝わる結界札が張ってあった。それは、遊馬のものとは違ったが、効力は同じと聞いている。四方に張った結界を更に強化させるもののはずだ。神剣を奉る神殿にも用いられている。
結界は、外からの侵入を防ぐ目的か、或いは、何かの効力を内に封じ込めたかったか。敵の侵入を防ぐために張ったものとも考えられるが、正三は、そうではない、と確信していた。
なぜなら、結界の効力は、勇者の血縁には利かない。
それは、ここ数日の、新蔵や弥太吉らの様子に、妙に合致する。
カチ――鍔を押し上げると同時に、深く息を吐いた。そして、一気に吸い込むと、息を止め、気合を籠めて刀を抜く。
二つ数えるうちに、刀は鞘に戻り、正三は息を吐いた。
足元に、真っ二つになった結界札が木の葉のように舞い落ちた。
(ここを出るか、それとも、四方位の結界を解くか……)
誰かの下につくことが多かったため、正三は決断には慣れていない。迷う彼の耳に届いたのは、本堂の扉を、ブチ破る勢いでざわめく足音だった。