弟矢 ―四神剣伝説―
「お前、本当に間違ってないんだろうなっ!」

「文句があるなら、引き返して、勝手にしろよ」


その言葉に、新蔵は振り返る。そこは昼間なのに鬱蒼とした森が広がっていた。彼は、慌てて乙矢の後を追う。


「心配すんなよ。方向感覚だけは、一矢より上だぜ。ガキの頃から迷子にはなったことがないんだ」

「自慢は結構だが、少し休もう。――ほら、そこに湧き水がある」


この辺は雨も豊富で地下水にも恵まれた辺りだ。良質な湧き水があちこちに見られる。


「なんだ、もう疲れたのか?」

「俺じゃない。お前だ。俺を助けた時に肩をやったんだろ? 呼吸が荒い。熱もあるんじゃないのか? ちょっと待ってろ」


新蔵は冷たい湧き水で手拭いを浸し、乙矢の元に駆け戻った。


「痛てっ! 置くだけでいいって。押し付けるなよ」


そのまま、新蔵は何度も往復して、無言で乙矢の肩や額を冷やし続ける。乙矢にしたら、悪態の一つも吐かないのはどうも不気味だ。


「なぁ、何か言いたいことがあるなら、はっきり言ってくれ。お前に優しくされたら、逆に怖いよ」


そう言った瞬間、バッと新蔵は立ち上がり、腰に下げた長刀の鞘に手を掛けた。


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