弟矢 ―四神剣伝説―
だいぶ痛みの治まった肩に袖を通しながら、乙矢は答える。


「わからなくはない。ただ、それが正しいと思えねぇだけだよ」


新蔵は少し視線を落とし、見るとはなしに、ジッと地面を見つめるようにして呟いた。


「俺は……捨て子なんだ」

「え? 捨て子って」

「ちょうど、弓月様がお生まれになったその日に、遊馬の領地に置き去りにされた。そのまま行き倒れになって野垂れ死ぬ所を、宗主様に助けて頂いたのだ。……めでたい日に、子供の死人は出したくないと言われてな」


それには乙矢も驚いた。なぜなら、新蔵は弓月のことを名前で呼んでいる。それは、四天王家と大差ない、身分ある家柄の出なのだ、と思っていた。

乙矢自身は、身分を気にする性質ではないが、長瀬などは真っ先に文句を言いそうなものだ。


「そのまま、屋敷の隅に置いて貰えて、剣術まで教わった。そんな俺の面倒を見てくれたのが、織田さんだったんだ」


新蔵が正三の名を呼ぶ時の声は、少年が兄のことを語る口調だ。逆もそうである。正三が新蔵を見る目は、大切な者を庇う眼差しだ。――その時、ふと気が付いた。二人はまるで実の兄弟のように見える。そして、自分と一矢はなんとその姿から遠く離れてしまったことか。

クッと乙矢は唇の裏側を噛み締め、込み上げた嫉妬の感情を、新蔵に悟られないようにした。


「なあ、もし、もう一度同じことが起こったら……お前はどうする?」


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