弟矢 ―四神剣伝説―
――『奴らを殺せ! 敵だ! 敵は殺さんとならん!』


それは、逃げる正三の耳に届いた言葉だ。

寸分違わぬ台詞を彼は覚えていた。神剣を抜いた時、脳裏に響き渡った鬼の声である。どうやら神剣の鬼は一旦目覚めると、結界の中の人間にまで影響を及ぼすらしい。

だが『青龍』は『白虎』や『朱雀』に比べ、それほど強い力はない。鬼が宿る人間が必要だ。

そこまで考えた時、正三の背筋を微弱な電流が伝った。


「やはり、来たか……」


正三の緊迫した声を聞き、おきみは泣きそうな顔になる。震える少女の肩を抱き寄せ、


「心配致すな、私が守る。なぁに、今は礼には及ばぬ。十年……いや、十五年先が楽しみだ。忘れるなよ、おきみ」


余裕の笑顔を見せる正三に、おきみもキョトンとして微笑み返す。

そして、おきみに見えぬように、手の平の汗を拭う正三だった。


< 256 / 484 >

この作品をシェア

pagetop