弟矢 ―四神剣伝説―
「誰が盗み返したのかは知らぬわ! だが、あの方の命令とあらば、従うまでのこと」

「しかし、我らが美作の山中で休み所として利用する里跡(さとあと)に逃げ込むとは……。笑止なことですな。辺りの地形だけでなく、内部も熟知しておりますれば、仕留めるのは時間の問題かと」


側近の兵は得意気に語るが、武藤の不満は別のところにあった。


「各個撃破が常套の策とはいえ、この武藤小五郎の獲物が遊馬の剣士一匹と幼子とは」


(せめて、遊馬の姫がいれば、楽しめたものを)


それは言葉にせず、神剣の入った白木の箱を指先で小突いた。


「鬼の用意をしておけ。里跡に放つ。弓兵も忘れずに待機させておくのだぞ。あの……遊馬の男は拙者が仕留める。それくらい、楽しみがなくてはな」
 

武藤は頬から顎の傷を擦りながら、殺戮の予感に口元を歪めたのだった。


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