弟矢 ―四神剣伝説―
「ここら辺りにあるはずだよ……な」

「ああ。言っとくが、迷子にはなってねぇぞ! なんで里がねぇんだよっ」


乙矢と新蔵の二人だ。山中を突っ切り、半日より早く里に戻ったはずだった。ところが、里があるはずの場所に辿り着けない。

さすがの新蔵も不眠不休が堪えており、乙矢は傷の痛みからか、二人とも集中力を欠いている。

だが、その時、乙矢が本道に多数の足跡を見つけた。五人や十人ではない。さすがに蹄の跡はなかったが、軽く三桁の兵力が里を襲撃したと見える。


「新蔵。なんかやべぇぞ」

「わかってる。――ちょっと、待て!」


不意に何事か閃いたのか、一つの木の根元を掘り起こし始めた。乙矢には訳がわからない。

だが、立ち上がった新蔵が、


「来い、乙矢。これが迷子の原因だ」

「これって、結界、か?」


土中に埋まっていたのは、爾志のものとは違う結界札であった。


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