弟矢 ―四神剣伝説―
「いたぞっ! 遊馬の男だ!」

「子供も一緒にいるぞっ!」


乙矢らが結界に気付く少し前、里に辿り着けず周囲を徘徊していた蚩尤軍兵士に、正三とおきみは見つかった。

 
正三は里人を警戒するあまり、里から離れ過ぎてしまったようだ。戻りたくても戻れない位置まで出てしまっていた。

夜の闇に紛れれば、おきみを連れて逃げ切れるかも知れない。そう考えていたが、夏の日没は遅い。酉の刻を過ぎてもまだ辺りは十分に明るかった。

 
「どうやら、我らを守る為、凪先生が張ってくれた結界が仇になったようだ。乙矢の無実を証明するには、お前だけは死なせるわけにはいかんのだがな。さて、どうするか……」


独り言のように呟く正三に、


「おとや……おとや」


おきみは乙矢の名を呼び、正三の袖を引いた。

何事か訴えかける目をして、必死に首を振る。


「――おとやっ。おとやっ!」

「お前……乙矢がわかるのか?」


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