弟矢 ―四神剣伝説―
四、勇者の片鱗
里に近づくごとに、血の匂いが濃くなる。一度、神剣を抜いた者には何かが体に残るのだろうか? 乙矢の本能は、そこに鬼がいると告げていた。
「新蔵――鬼だ!」
夕闇の中、乙矢は目を細め、一つの影を凝視した。それは、そこかしこに転がる遺体の山を築き上げた『鬼』であった。
「まさか、織田さんじゃあるまいな」
少し遅れて乙矢に追いついた新蔵が震える声で尋ねる。
「いや、違う。正三はあんなに小さかねぇよ」
乙矢の返事に、新蔵はあからさまにホッとした。しかし、眼前の光景は、とても安堵の息を吐くようなものではないだろう。その時、新蔵の横でポツリと乙矢が呟いた。
「……助けねぇと」
「誰をだ? ――おいっ」
答えるより先に走り出そうとした乙矢の腕を掴み引き止める。周囲に里人の死体はない。全て蚩尤軍兵士だ。
「放せよっ!」
「どうする気だ!」
「助けるに決まってる」
「敵、だぞ。助けてどうするんだ? 第一、『鬼』を作ったのは奴らだ。殺されても、自業自得というものだ!」
新蔵の言うことはもっともだ。助けに入った途端、背中を刺されないとも限らない。これまでの乙矢なら、真っ先に逃げ出していただろう。
「新蔵――鬼だ!」
夕闇の中、乙矢は目を細め、一つの影を凝視した。それは、そこかしこに転がる遺体の山を築き上げた『鬼』であった。
「まさか、織田さんじゃあるまいな」
少し遅れて乙矢に追いついた新蔵が震える声で尋ねる。
「いや、違う。正三はあんなに小さかねぇよ」
乙矢の返事に、新蔵はあからさまにホッとした。しかし、眼前の光景は、とても安堵の息を吐くようなものではないだろう。その時、新蔵の横でポツリと乙矢が呟いた。
「……助けねぇと」
「誰をだ? ――おいっ」
答えるより先に走り出そうとした乙矢の腕を掴み引き止める。周囲に里人の死体はない。全て蚩尤軍兵士だ。
「放せよっ!」
「どうする気だ!」
「助けるに決まってる」
「敵、だぞ。助けてどうするんだ? 第一、『鬼』を作ったのは奴らだ。殺されても、自業自得というものだ!」
新蔵の言うことはもっともだ。助けに入った途端、背中を刺されないとも限らない。これまでの乙矢なら、真っ先に逃げ出していただろう。