弟矢 ―四神剣伝説―
家一軒、見事に潰れて下敷きになったはずなのに、それでもまだ『青龍一の剣』を手放していない。しかも、どうやら時間が経つほどに、鬼と同化する仕組みのようだ。


「神剣から引き離さねば、鬼は止まらぬ、ということか……」


新蔵の脳裏に先代宗主の最期が浮かぶ。

先代は、弓月と嫡男、満を逃がしたが、満は妹の手に『青龍二の剣』を押し付け父の元に戻った。そのとき、師範代三人も満の後を追ったのだ。

だが、『弓月は女ながら、底知れぬ力を秘めている。どうか『二の剣』と共に妹を守ってくれ。頼む』満の言葉に、戦わず、背を向けた時の彼らの苦悩は、乙矢には決してわからぬものだろう。

突入した満の最期。夫を救おうと飛び出した妻に斬りかかる舅の剣。一斉に火縄銃の放たれた音と匂い。せめてもの救い、宗主が首を落とされる姿だけは直接目にすることはなかったが……。

あの時、駆けつけたのは幕府の正規軍だとばかり思っていた。

だが、軍を統括していた男の顔には、確かに仮面があった。仮面の男が宗主の首を落としたと聞く。弓月が高円の里で『仮面の男を呼べ』と言ったのは、敵討ちの思いからであった。



「なんで正三が里に残ってるんだっ!」


乙矢の声に新蔵はハッとして顔を上げた。


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