弟矢 ―四神剣伝説―
「正三を探さないと。武藤は神剣なんかなくても、十分、鬼になれる野郎だぜ」
乙矢は顔を上げ新蔵に話しかけた。だが……。
「鬼って奴は……これだけ殺して、まだ血が足りんのか? ――乙矢、伏せろっ!」
不意に獲物を見つけ『鬼』は襲い掛かった。どうやら、武藤はやたら丈夫な男を選んだようだ。その選択のまずさに舌打ちしたい気分だ。
おまけに、どうにも正三とおきみのことが気になり、二人とも『鬼』に集中できない。
その時、二人と『鬼』の間に数人の影が過ぎった。それは、蚩尤軍兵士の生き残りたちであった。
「寺の左手を回って薪小屋のほうに向かわれたと思います。小川に抜ける小道がありますから。武藤は六人の側近を連れ、後を追いました」
「なんで、俺らに教えるんだ?」
しかも、一兵士が上官を呼び捨てなんて、普通あり得ない。
「我らは幕府に仕えるもの。武藤は蚩尤軍の将であっても、我が主ではございません! 私も生きて我が藩主のもとに戻りとうございます。爾志家のご次男、乙矢殿でございますね。我が弟を救ってくれた、あなたを信じます」
「弟……って」
その兵士の後ろで、刀を握り、震えながら立っているのは先ほどの少年兵士であった。
「ここは我らで、鬼を倒し、神剣を再びあの箱に納めます。どうぞ、お二方は遊馬の剣士殿のもとへ……」
乙矢は顔を上げ新蔵に話しかけた。だが……。
「鬼って奴は……これだけ殺して、まだ血が足りんのか? ――乙矢、伏せろっ!」
不意に獲物を見つけ『鬼』は襲い掛かった。どうやら、武藤はやたら丈夫な男を選んだようだ。その選択のまずさに舌打ちしたい気分だ。
おまけに、どうにも正三とおきみのことが気になり、二人とも『鬼』に集中できない。
その時、二人と『鬼』の間に数人の影が過ぎった。それは、蚩尤軍兵士の生き残りたちであった。
「寺の左手を回って薪小屋のほうに向かわれたと思います。小川に抜ける小道がありますから。武藤は六人の側近を連れ、後を追いました」
「なんで、俺らに教えるんだ?」
しかも、一兵士が上官を呼び捨てなんて、普通あり得ない。
「我らは幕府に仕えるもの。武藤は蚩尤軍の将であっても、我が主ではございません! 私も生きて我が藩主のもとに戻りとうございます。爾志家のご次男、乙矢殿でございますね。我が弟を救ってくれた、あなたを信じます」
「弟……って」
その兵士の後ろで、刀を握り、震えながら立っているのは先ほどの少年兵士であった。
「ここは我らで、鬼を倒し、神剣を再びあの箱に納めます。どうぞ、お二方は遊馬の剣士殿のもとへ……」