弟矢 ―四神剣伝説―

五、守る為の戦い

壁を背に三方を囲まれた時、刀を握る手は汗を掻き、背中に冷たいものが伝った。


「……しょうざぁ」


左手でスッとおきみを背中に庇う。

正三の長刀は刃先が一尺ほど折れ、既に武器の役目を終えていた。遊馬の遠縁とはいえ、織田家に伝わる刀だ、決して鈍刀(なまくら)ではない。この西国に入ってからの戦い続きに、人間同様、疲労困憊といったところか。

脇差も既に、ただの飾りと化している。 


「手を取らせおって……悪あがきもこれまでだ」


武藤はこれ以上ないほど苛立っていた。

六人いた部下の四人までが、この男ひとりにやられたのだ。実に巧妙に、己の間合いに引き込む術を心得ている。しかし、広い場所に引き摺り出し取り囲めば、幼子を連れている分だけ不利だ。

正三の右頬は裂け、血が滴り落ちる。折れた刃先が自らに襲い掛かったせいだ。危うく目を貫くところであった。


「惜しいな。もう少し深手なら、拙者と同じく箔がついたものを」


正三を追い込み、余裕ができたのか、武藤は軽口を叩く。


「貴様と同じに致すな。顔の造作が違う」


いささか荒い息を吐き、窮地ではあるのだが、それでも正三はにやりと笑った。


「その減らず口がいつまで叩けるか。見ものだな!」


武藤は一斉に襲い掛かるよう、残った二人に軽く顎を上げ、指示を出した。


< 287 / 484 >

この作品をシェア

pagetop