弟矢 ―四神剣伝説―
辺りは既に闇だ。通りの中心で焚かれた火は、寺を隔てた里の端までは届かない。

もう二日も経てば新月となるこの時期、月はまだまだ顔を出さず、姿を見せても顔に影を作るのがせいぜいであろう。


「でぇいやぁぁぁぁぁっ!」


正三の左から奇声が聞こえた。

陽動だ。咄嗟に見極め、手にした長刀を最後の使い道――正面の武藤に向かって投げつける。

右に踏み出し、敵兵の懐に自ら飛び込んだ。

空いた右手にはおきみの襟首を掴んでいる。そのまま、勢いをつけて、敵兵の後方に投げ飛ばす。これでひとまずは安全だ。

同時に、左手で敵の脇差を抜き、奇声を上げた男に向かって投げた。仕上げは、敵兵の手から刀を取り上げ、喉笛を掻き切る。

そして、その刀を構え武藤に向き合えば――少なくとも、対等になるはずであった。


「しょうざあっ!」


地面を転がるおきみの叫び声に、正三はハッと振り返った。


「チッ……外したか」


必殺を目論み、投げた脇差は喉骨を狙った。胸か腹にしておけば良かった、と思っても、後の祭りだ。間に合わない。


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