弟矢 ―四神剣伝説―
その声を聞いた瞬間、乙矢は敵の足に突き刺した刀を一気に引き抜く。そのまま、武藤に向かって走った。

だが、距離は圧倒的に奴の方がおきみに近い。

しかし、おきみとの距離は正三の方が更に近かった。

重量感のある武藤と、正三は再び刀を合わせる。一合、二合、と斬り結び、三合目――正三の掴んだ借り物の刀は弾き飛ばされた。正三は、咄嗟におきみを抱え、脱兎の如く駆け出す。だが、その背を武藤の刃が掠めた。


「正三っ!」


ようやく追いついた乙矢が、二人の間に飛び込んだ。その瞬間、武藤は刀を引き、乙矢と距離を取る。


「正三、無事かっ!」

「……ああ。かすり傷だ」


近くで見ると正三は満身創痍である。それもこれも一矢の、ひいては自分のせいだと思うと、乙矢の胸は痛む。


「ほう。よくぞ拙者に楯突けたものだな。姉を置いて逃げ出し……神剣を手に命乞いした小童(こわっぱ)がっ!」


武藤は、燃え立つ殺気を隠そうともせず、乙矢らの眼前に立ちはだかった。


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