弟矢 ―四神剣伝説―
その頃、弓月らは美作(みまさか)から北上するため津山を目指していた。

 
美作の関所には十人足らずの番士が構えるだけであった。とくに、蚩尤軍兵士というわけでもない。切迫した危機感とは相反して、日常的な業務を遂行する彼らに、弓月らは首を傾げた。

しかし、そんな疑問は抱くだけ無駄となる。

一矢は、なんとその番士らを、一人残らず斬り捨てたのだ。


「一矢殿、なんという真似を!?」


気色ばんで、一矢を責める弓月を軽くいなしつつ、


「何とは面妖な。私は敵を斬っただけだ」

「彼らは蚩尤軍兵士ではなかった。幕府に命ぜられた、諸藩の藩士でありましょう! それを問答無用に斬るなど……」

「姫。ここは、神剣を探すのが先でござる。今はどうか……お引き下され」


長瀬が必死で弓月を押し止める。

だが、どれほど探せども神剣を納めた白木の箱は見つからない。


「神剣の気配はないようです。もしや……入れ違いに、里に向かったのやも知れませぬ」

「なんと! 凪先生、それならば一刻も早く里に戻らねば。神剣の鬼が里を襲えば、正三ひとりでは防ぎようがござらん」


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