弟矢 ―四神剣伝説―
第七章 血塗られた里

一、斬れぬ月

可能な限り手早く『鬼』を片付け、乙矢の後を追った新蔵が目にしたのは……裏拳で乙矢の頬を打ち据える正三の姿だった。


「な……何すんだよっ! なんで」

「お前はこれまで、何度『俺のせいだ』と口にした? この先も言い続けるつもりか? いいか乙矢、どれほどお前の器が大きくとも、割れた器では使い物にならん」


無言で頬を拭う乙矢と、本気で怒る正三を目にして、新蔵は何がどうなったのか訳がわからない。


「あ、あの……織田さん、どうしたんですか? こいつ、また何かしましたか?」

「武藤を殺せたのに殺さず、まんまと逃がしてやったのだ」

「俺だけのせいかよっ! だったら、てめえがやればよかったんだ!」


カッとなって言い返す乙矢に、正三は嫌味を籠めて答えた。


「柄だけで人は斬れん。奴は、自分に恥を掻かせたお前を、どう思っただろうな。一矢が連中と通じているなら、長瀬殿や凪先生だけでは姫様を守りきれまい。万が一の時、お前はまた『俺のせいだ』と泣くのか?」


さすがに、弓月のことを言われたらぐうの音も出ない。


「いつだったか……長瀬殿に噛み付いていたな。神剣とは民を護るためのもの、その神剣を護るために民を犠牲にするのは間違っている、と。乙矢――それを決めることができるのは、神剣の鬼に選ばれた勇者のみ」

「それは、どういう意味なんだ?」


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