弟矢 ―四神剣伝説―
そこまで言って、さっきの連中の言葉を思い出す。お六は『始末された』ということだろうか? しかし、それは裏切りを意味している。

お六は虫の息で乙矢を見上げると、掠れた声で笑った。


「バチが当たった、よ。あんたを、訪ねる人間がいたら……報告しろって……金が欲しかった、のさ……」

「金はもらえたのか?」

「これまで……ちょっとずつ貰ったよ。……でも、最後に、これさ」


お六は手を動かし、斬られた仕草をして見せた。乙矢は唇を噛み締める。


「わ、るい。悪い。俺のせいだ。すまない」

「何、言ってんだい。あたしゃ……あんたを売ったんだよ。謝るやつが……いるか、い」

「俺が関わったせいだ。悪い、何もしてやれない。俺には、仇を討ってやる力もないんだ。ごめん、お六ばあさん……」
 

また、だ。また、自分のせいで人が死ぬ。よかれと思ったことは全て裏目に出る。その度に、乙矢自身ではなく、周りの誰かが犠牲になるのだ。申し訳なさに涙がこぼれた。

お六はそんな乙矢を見つめ、そっと頬に手をあてると涙を拭ってやる。


「あの、浪人たちは……あんたの味方かい?」

「味方かどうかはわかんねえけど、敵じゃない。あいつらがどうかしたのか?」

「裏の山に追い込んで、一斉に刈るって言ってた……。山の出口は、大軍で固める……ってさ。乙矢……助けて、おやり、よ」


ゴボッとお六は血を吐いた。


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