弟矢 ―四神剣伝説―
正三の的を射た推量に、乙矢は眩暈がした。


「あ、あの織田さん……それって、一矢が『朱雀の主』で鬼ってことですか? いや、でも、奴は爾志家の」

「勇者の血に、一門の流派は関係ねぇよ。鬼に選ばれさえすればいいんだ。でも、あの宗次朗さんがそう簡単に『朱雀』を手放したとは思えねぇ」
 

乙矢の言うとおり、『青龍の主』が遊馬家から、『白虎の主』が爾志家から出ると決まっているわけではない。理由は簡単だ、既に血が混ざっているからである。

数代前まで、彼らは一門の中で血族婚を繰り返していた。

その結果、濁った血は出生率は下げ、早世する子供を増やしてしまう。凪のような病で命を落とす例が、昔はもっと多かった。

一計を案じた時の宗主たちは、なるべく血の遠い四天王家間で許婚を定めた。相応しい者がいない場合は、一門の遠縁、或いは血縁以外から伴侶を選ぶ。宗主の決定は絶対で、血を薄めない為、且つ、濁らせない為の止むを得ない策。一矢と弓月の婚約も、その一つだった。


「皆実宗次朗殿か。確か、お前とは従兄弟になるのか?」

「俺だけじゃない、一矢にとっても従兄弟なんだ。あいつが宗次朗さんをなんて……」

「――殺ったに決まってる! 双子の弟を殺そうとする奴が、従兄弟殺しを躊躇うものかっ!」


< 301 / 484 >

この作品をシェア

pagetop