弟矢 ―四神剣伝説―
「乙矢、お前に言っておかねばならぬことがある」

「……なんだよ」


もう勘弁してくれ、と言わんばかりの表情だ。

だが、正三の言葉は乙矢の意表を突くものだった。


「お前のおかげで助かった。礼を言う」


そう言うと、正三はスッと頭を下げる。


「え? あ、いや、別にそんな」

「乙矢、一つだけ確認しておきたい。一矢は間違いなくお前を殺すつもりだ。奴がたとえ『朱雀の主』であっても、里人を手に掛けた男に勇者の資格はない。お前は――どうする?」


どうするべきか、どうせねばならないか、子供にもわかるはずの答えだ。だが、


「一矢を……死なせたくない」

「乙矢っ! お前まだ」

「新蔵、黙れ」

「勇者だと信じてきた。いや、今も信じてる。最後まで信じたいんだ! でも、もし、兄矢(はや)が的を外れたなら、俺はこれ以上逃げる気はない!」


正三は乙矢らしい返答に、微苦笑を浮かべた。だが、すぐに表情を引き締め、


「一矢の残した怪しげな結界も、そろそろ消える頃だ。さすれば、このおきみを里人に預け、我らは姫様を追うとしよう。覚悟は良いな、乙矢」

「ああ、わかってる」


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