弟矢 ―四神剣伝説―
視線を交わしうなずき合う二人を横目で見ながら、新蔵は口の中で呟いた。


「まあ、織田さんが良いというなら良いんですが……」


乙矢を認めてはいるが、崇拝とまでは行かない。

“戦うが殺したくない”そんな乙矢の素振りが、どうも新蔵には受け入れ難く……。
 

その時だ。闇を貫き、里に奇声が轟いた。未だ姿を現さぬ二十六夜の月など、粉々に砕いてしまいそうだ。


「なっ! なんだ、今の声は」

「新蔵――お前、鬼は倒したんだよな。『青龍一の剣』は何処だっ!? まさか、置いてきたんじゃねぇよなっ?」

「し、蚩尤軍の持ってた白木の箱に納めて、戻るまで頼むって……あいつらに」


乙矢の全身が総毛立つ。それは、新たな『鬼』の予感であった。


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